移民船が遠く離れた居住可能な惑星の周回軌道に載った後、
惑星をテラフォーミングする際に、ナノマシンが大量散布される。
それは豊かな星を食らい尽くす。大気、水、土、諸々の物質から(あるいは生物から直接に)有機物を手当たりに抽出し破壊し構造解析し測定情報を周回軌道上の移民船のクラウドに送信され、居住域の有機物分布のビックデータが構築される。
そして、それらは居住可能な様に全てが組み替えられる。
勿論、それは地上の原生生物にとって、この世の終末でもある。
その尊い犠牲の上に我々の安寿の地が生まれるのだ。
そうこの地も例外ではない。
そしてパーフェクトに事が進むこともない。
どの星も地中深い岩石層や火山火口にまで原始的な古生物が分布する。ナノマシンでマントル層に至る地殻層を全て分解しつくすには相当な年月を要し、長い年月をかけて安定した地殻を元に復元するには同じ年月が必要で、到底再構築フェーズに入れられるものではない。
また大気圏高層から宇宙圏まで噴き上げられたウイルスの類、近傍の惑星からの長い宇宙旅行の末にたどり着くであろう隕石の類やその中に含まれる有機物の探索・回収も容易ではなく、いづれは近傍の地から類似の原始生命が次第に漂着するのを防ぐ手立ては無い。
しかし、それらによってすぐに移民達の生命が危機に瀕する訳もなく、また移民が成功利に終われば文明社会が形成され、それらに対する万全の対抗策も施されるハズである。
移民開始から十数年。
偽りの記憶と歴史がまだ鮮明である現世代。
まだ人の知らぬ地では未だ搬送艇(当惑星はダラガブ系搬送艇)からのナノマシン散布による再構築が進行中である。その再構築の場に足を踏み入れば即座に神に祝福された地の素材として活用されよう。
今はまだ壊滅的な有機物破壊の後に再構築を完了した僅かばかりの地に住むのみ。
そして、いつの頃も、気がかりな、稀有な悩みを持つものだ。
この地にたどり着いたのは我々が最初なのか?
この地にたどり着いたのは我々が最後なのか?
・・・
そして、やっと気が付くのだ。
我々の後からたどり着くものが現れる日はいつ来るのだろうか?
彼の口癖はいつもこの言葉から始まる。
『急がねばならぬ。』