【ハッシュ・ザ・ハーツ】 レッツト・ブリーフトレーガー

怒涛のようなパケットの洪水
と云う表現は正しくない。

パケットは幽霊の様な存在だ。
押し合いも、圧し合いをせず、互いにその姿をすり抜け、我先に中継機の空席を奪い合うのだ。
空席が無くなると幽霊たちは駐機場脇の吊革に掴まりバッファに滞留する。
やがて中継機が離陸し目的地へと飛び立つ。
バッファに滞留していた幽霊たちは次の便を待っている。
吊革をつかめなかった幽霊たちは・・・一声悲しく啼いて消滅する。

幽霊の1つ1つはテキストや映像の断片にすぎないのだが、まるで自意識でもあるように振る舞う。消滅した幽霊たち(パケット)も、このネットワークにその存在を一定の範囲に偏在させており、その存在の可能性の1つや2つが消滅しても何も問題は無い。
 
私が見ている存在としてのパケットは幽霊の影なのかもしれない。
 
時には、中継機の事故で乗り込んだ全てのパケットが消失、更に連続的に発生した事故により、全ての可能性が消滅することもあるが、それすら何も問題は無い。全滅に感づいたパケットを送り出したモノがもう一度同じパケットを送り出せば良いだけなのだ。それは、それぞれのパケットが最終目的地に届くまで何度でも繰り返される。

このネットワークはその様に創られている。

だが、多重送信し続けるモノが一人出現すれば、消滅した影が怒涛のごとく再生され、このネットワークは幽霊の影であふれ返り、いづれの影も最終目的地にたどり着くことができなくなるはずだ。
しかし、そうはならなかった。
いつのまにか、幽霊たちがいなくなってしまうだけなのだ。
パケットをここへ送り出したモノがしびれを切らしあるいは諦めてしまったのだろう。

そう思っていた。
だが、それは真実ではなかった。
このネットワークは単一構造ではなく、たくさんのネットワーク・セクターの超集合体である。

であれば、どこかのセクターが滞留する大量の幽霊を処分してるのだろうか?
そうなれば、大量に処分された幽霊たちの鳴き声なぞが響き渡れば、誰もが気づくだろう。
だが、その様なことは無く、ただただ同じ毎日の繰り返し。

深まるばかりのその謎を
私は・・・

~ 朽ち果てた末端の中継機に残された郵便配達人の手記 より ~




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