ガイウスが初めてガレマール帝国の帝都を訪れた時のこと。
樹緑が溢れ静寂な帝都のたたずまいに驚愕せざるを得なかった。ここは、経済の中心ではない。そして皇帝城は隣国にあり政治の中心ですらない。ではなぜここが帝都なのか?ここは皇帝の故郷。ただそれだけなのではないのか?皇帝の謁見に臨むまで彼の心の中の謎は解けることはなかった。
ガレマールが北の小国であった頃、高い技術力とそれを基にした強力な軍勢を背景に同盟を組み一気に勢力を拡大ついには近隣の盟主国に匹敵するほどになると、当のガルヴァス(現皇帝)はこれで一息つけると思っていた。
この辺りが丁度良いだろうと、もう大国の動向に踊らされずに済むと・・・
しかし、近隣の盟主国側からすれば新興の軍事大国の出現は大きな脅威となり、国境沿いの小競り合いは日増しに増えていったため、表向きは国内の安定を求め更なる勢力の拡大へと突き進むことになるが、早期に同盟の一員となった者達はヒエラルキーの上位にあり日々の安定を望んでおり、主に後発組がヒエラルキー上層への遷移を望み戦功を渇望した結果でもあった。
勢力の拡大が進むほどヒエラルキーの上層と下層で意思が乖離し、軋轢が増す一方であった。
帝政を敷くことの本意は国内の安定であったが、他方では強大な軍事国家をイメージするものであり、国境争いの終結への足掛かりとして都合が良かったのだった。
これで、やっと一安心。
ガルヴァスとその周囲に長年待ち焦がれた安泰と安らぎが訪れた。
しかし、それは皇帝の傍、帝国の中心だけのことであった。
確固たるヒエラルキーを確立した帝国内ではヒエラルキー上層への遷移を望むものが大多数であり、ヒエラルキー上層は帝国全体の極僅かな比率でしかなかった。
帝都は台風の目の様に日当たりもよく微風もなく帝国内で唯一の穏やかな場所であった。
帝都から戻る途中、彼は奇妙な絵を見つめていた。
中央には巨大な蛮神、周囲にはそれに立ち向かう冒険者達が描かれており、よくある活劇のパンフレットの表紙絵であったが、彼のそれにはペンでこう書き足されていた。
蛮神の頭上に「Fresh Meet」、そして、周囲の多数の冒険者一人ひとりに「Enemy」と・・・