~ダイアロス~ この北海に浮かぶ島は、今では人が入り込むことを拒むかのように常に雷雲に閉ざされ、 その有様を伺い知ることは容易ではない。ある者は巨人族がいると云い、またある者は 女人族がいるなどと、夢現な妄想ばかりが伝わっているだけである。 話は15年前に始まる。ダイアロスにある謎の魔力に魅入られたドラキア帝国がこの島へ 侵攻。当時ビスク近辺に定住していたエルガディン族を山岳部へ追い払い、今のビスクを 築くこととなる。その直後、島は巨大な雷雲に囲まれ、二度と人が入り込むことができなく なってしまった。ドラキア帝国の増援を警戒した新興勢力マブ教教祖イーゴの仕業である。 当初、この動乱によりダイアロスに眠る「謎の魔力」がドラキア帝国の国力を強力なもの にすると思われ、列国の注目を集めていたが、魔力の源である巨大なノア・ストーンの制御が あまりにも困難で島を取り囲む雷雲を掃うこともできず、大陸へ戻ることもままならない始末。 通行が閉ざされた今、大陸では「謎の魔力」により大敗し、侵攻は失敗に終わったとの噂が 広がっている。 しかし、夢を抱くものは尽きず、今日も荒波を越えダイアロスへ渡ろうとする者がいる。 誰も名も知らぬ若者はこの雷雲がモラ族・イーゴの仕業とは知る良しもなく、高波の下の 岩礁に舟を破壊され海に沈んでいった。この若者たちの魂を擬体(ホムンクルス)に封印し 蘇らせる者がいた。 モラ族の族長イーノス。彼は、ホムンクルスとなって蘇った若者たちが薄っすらと残って いる人間であった頃の記憶に翻弄され人形として蘇った己の姿に葛藤を覚え凶暴な振る舞い になることを知りつつ、ホムンクルスを今尚増やし続けているのだ。 この禁断の生体練成を続けるモラ族イーノスは、いったい何が望んでいるのであろうか? 10年の後、いわゆるWarAgeと呼ばれる時代が訪れ、エルガディンとビスクの壮絶な 戦いが繰り広げられる頃、イーノスが本性を現すがそれはまだ来ぬ未来の話である。 ~ある新月の夜~ 先の若者が塔の上に立っていた。その特殊能力を持つ瞳が捕らえたのは、武器倉庫の屋上に 爆弾を設置しているエルガディンの特殊部隊の隊員の姿であった。倉庫の屋上へ飛び降りる。 エルガディンは着地の音に気がつき近接距離で銃を撃つが擬態性能が優位な若者は宙を舞い蹴り を入れる。ひるむエルガディン。隣の屋根へと飛び移って逃走する。高低差があり着地まで1秒。 若者がマティバを撃つ。エルガディンの脛に命中し砕け散る。着地に失敗し迎え撃つ余裕を失い、 若者に武器を取られてしまうエルガディン。 「おまえらビスクに正義は成し得ない。」 エルガディンにマティバの銃口を向ける若者。 「世の中に不満があるなら自分を変えろ。 それが嫌なら耳と目を閉じ口を噤んで孤独に暮らせ。 それも嫌なら!」 エルガディンの額にマティバの銃口を押し付ける若者。 イーノス:『少佐。全員装備A2で召集をかけろ。場所は82のD3。』 若者:【聞いた?パンダ?】 グラップスに載ったパンデモスが低空から屋上に舞い降りた。 パンダ:【あぁ、聞いてるよ。】 以下、続く?