変奏現実

パソコンやMMORPGのことなどを思いつくまま・・・記載されている会社名・製品名・システム名などは、各社の商標、または登録商標です。

この画面は、簡易表示です

アナザストーリー

【ギラバニアの貴公子Ⅱ】胎動

高々度哨戒軌道から観る異星は深黒のボールの様だ。
豊かな森林も砂漠も海も無く変化に乏しい。
動くものと云えば熱源から立ち昇る水蒸気が作り出す高層の薄い雲の流れだけだ。

異星の星系は3連星で
この星は第3伴星を周回しており、
地表の凹凸に影がいくつもできる日もあれば、
影が相殺され立体感に乏しい日もある。

今は第3伴星が作る夜を主星の強い光がかき消している。

それなのにこの星は深黒なのだ。

ハイデリンと繋がるゲート付近を除く大半が
まだテラフォーミングの真っ最中。
地表に広がるナノマシンの群体が恒星の光りを貪欲に吸収し
星を作り変えるエネルギー源にしているのだ。

だが、ナノマシンの群れは星を作り変えるだけではない。
厄介な敵も生み出している。

ハイデリンではARとしてHUDに投影されるMOBが
ここでは実在する物質をまとって存在する。

しっかりとした実体があるので、MOBに剣や槍で攻撃しようものなら、
どんなにILが高い武器ても数匹と対峙すれば壊れてしまう。
本当に壊れてしまうのでGilでその場で修理という訳にもいかず
大軍を投入してもヒットアンドウェイで前線と補給路を移動しつづけるしかないのだ。

現在はガレマール帝国の航空宇宙軍と地上機甲師団が主力であり、
徹底した絨毯爆撃と砲撃の後で地上の傭兵たちが資源調査を行っている。
それでも、わずかではあるが実体のあるMOBが出没する。

傭兵たちからのMOB出現の報告を受け高高度からのレーザー砲撃を行う。
しかし、傭兵たちのHUDには剣や槍を手にした冒険者の手によって
MOBが討ち取られたとログに表示される。

そんな状況が続いていたが、ナノマシンの群れが地下深く溜まり場を作り
そこから高いエネルギー反応が検出され始めた。

おそらく巨大なMOB(蛮神)を生み出そうとしているのだろうというのが技術部の推測だ。

高高度からのレーザー照射で溜まり場を探索することで
少しづつ生み出されようとしているものの姿が判ってきた。
不思議なことに故事に描写のある巨大な怪物に似ているものが多いのだ。

それは何を意味するのか?

まだ、この星については判らないことが多すぎだ。
そしてとてつもなく危険な星なのだ。

レーザー照射に強い反応。
何かが高速で地上から空中へ飛び出したようだ。
それはこちらからは動いていないように見える。

つまり、
こっちに真っすぐ突っ込んできている訳だ。

後席のナビゲーターがカウントダウンを開始。
5、4、
それに合わせてゆっくりとエンジンのスロットルをあげる。
エンジンにエネルギーを送りこむポンプの出力をMAXへ。

2,1、ボード。左。

右エンジンのスロットルをMAXに叩き込み、
10Gの高加速で旋回。

続けで左エンジンのスロットルもMAX。
全力航行。

接近する飛翔体と90度の角度で交差。

すぐにレーザーガンで近接射撃を開始。
飛翔体の左半分の表層面が爆発で吹き飛ぶ。

続けて右半分も強烈なX線を放射して爆発した。

安全圏へ退避し、スロットを戻した後、

さてはて、今のは

地上の傭兵たちのHUDには
どんな風に映っていたのだろうか?

巨大な竜巻?
昇竜?

それとも・・・



【ギラバニアの貴公子Ⅱ】再会

北海のゲートを越え
ハイデリンではない異星の地である
フロントラインに突入してから既に3日。

大きな獲物の周囲の戦闘には付きものの
落雷の様な閃光と爆音そして巨大な黒煙。
それを目印に沢山の冒険者が群らがると蛮神ですら
すぐに溶けてしまうので無駄口をたたいている暇すら無い。

僅かでも先に獲物にありつく為に口数の多いお調子者ですら
頭のエーテル干渉計のゲージをにらみつつ索敵するのに謀殺され黙り込んでしまった。

だから暫くの間、
ここは平穏であった。

しかし、この地ではとてもカネがかかる。
食えそうなモノは地面に生えておらず
飲めるようなものも無い。
呼吸可能な大気すらないのだから当然だ。

恐らくはハイデリンと同様、
この星もテラフォーミングの真っ最中なのだろう。

幾たびかのフェーズの後、帝国とその周辺は概ね完了してはいるものの
エオルゼアなど周辺諸国は道なりに範囲を広げる拡張フェースがまだ進行中で、
それが終わるまで空を飛ぶことも赤い湖を泳ぐことも危険この上無いことだ。

海岸などを取り巻くシールドは物理的に存在する訳では無い。
LSリングを中継して得られる位置座標から体を制御するコントローラに指示を出し
手足がシールドが存在するかの様に振る舞うだけなのだ。

だから、本当のリアルなノックバック攻撃でも受けて海に落ちたら、
否、あれは岩盤を食い荒らすテラフォーミング専用のナノマシーンの群れだ。
あんなものの中に落ちたら、いや、触れるだけで俺の体は原子レベルでバラバラにされてしまう。

だが、ARで投影されたMOBや蛮神からリアルな攻撃など食らう訳が無い。
海辺の岸壁で釣りをしている時に突風にさらわれることだけ気を付けておけば大丈夫なのだ。

そんな中途半端な日常に飽きてフロントラインに来たのだが
未だに周囲の冒険者にいつも先を越され獲物にありつけないありさまだ。

今のところはここはとても安全だ。
だが、貰った前金ももう残り少ない
後数日でハイデリンに戻るしかないだろう。

何も得るも無く引き返すのは癪だが
全てを失うよりはいいかもしれない。

口数の多かったお調子者も同じ思いだったのか?
俺に頭のエーテル干渉計を投げてよこしやがった。

眼の隅で飛んでくるエーテル干渉計を見つつ左手で受け取ると
それはずっしりと重く左肩がズズっと下がる。

馬鹿な奴だ。
自分の頭も一緒に投げる奴があるか。

お前は本当にお調子者だったな・・・

後ろに振りかぶったレイピアをそのまま左後方へ突き出す。
その切っ先にエーテルのパワーを集中させ俺の心臓を突き刺そうとするパワーを二つにへし折った。

さて、次はどうしようか?

お調子者ともう一人のDPSはもう動けない。
デットエンド。

このパーティーの生き残りは
俺とタンクとヒーラーだけかな。

黒い馬に乗った無表情のデカい奴を相手にするには力不足だが、
何すぐに応援が来る。

どっちかと云えば応援にやってくる奴らの方が表情が豊かで怖いくらいだ。

さぁ
俺たちの狩りの始まりだ。

俺たちの・・・



【ハッシュ・ザ・ハーツ】 ギャラクシーズ・デスティニー

銀河を網羅するギャラクシー・ネットーワーク。

 それは星間の遠大な通信距離を記憶装置とし、
星間を通り抜けていく間にエラーだらけになった膨大な通信情報を
中継点の並列化された高速演算処理システムで補完し、
再び星間に発信することで、情報が維持される。

 通信遅延時間が莫大であるため、
知識ベースとしての利用価値はあるものの、
日常の情報(ニュース、商業等)は、
歴史的風俗資料としての価値しか
見いだせないシロモノである。

 しかし、これなくしては、過去を観ることもできず、
また未来を占うこともすでに困難なことになっている。

 なぜなら、明日は何をすべきなのかは
送られてくる大量の過去情報を検索すれば、
検索結果として表示されることが多いのだ。

 ただ、その検索結果(ヒット)数は非常に多く、
瞬時に検索結果を評価するAIが必要であり、
それが郵便配達業務AIの主業務である。

 このギャラクシー・ネットーワークでは
日常の情報を新たに通信情報に追加することはあるものの
それは特定の相手に送るのが目的ではない。

今は誰も知らない種として発生すらしていない知的生命体に向けられたものでもある。

 その全ての通信情報には最終到達点が銀河の最果ての端に存在する。
この最終到達点には、他の中継点と同様に銀河内の中継点へ再送信する一方で
外銀河へ送信する業務も含まれている。

 この最終到達点のAIは、大量に送られてくる情報を外銀河へ送信するかどうかを判断するために短期記憶回路と外部記憶装置(近接中継点)を並列稼働し同じ情報をマージし続けていたのだが、今では全ての情報をマージしつづけている。

 銀河で起こった全ての出来事で糸をつむぎ、1つの紋様を浮かび上がらせようとしている。

最初は送られる情報から
〇オンラインのゲームサーバーのフィールドで活動するアバター。
〇時計や携帯ターミナルにプチサイズで活動するアバター。
〇電子紙面の隅のアイコンとして活動をするアバター。
を探し出す最中にこの業務に不慣れな新米のAIが捨て去った情報の塊であったのだ。

さらに
〇巨大ガス惑星の中の空中戦ゲームのアバター。

さらに
〇Daily, Dailyとつぶやくのアバター。

と関連のあるアバターを探し続けたあげく捨て去った情報の塊をガーベージコレクションが処理しきれず外部記憶装置との間を往復し始めたのがきっかけであった。

今では最終到達点と外部記憶装置(近接中継点)の空間の莫大な情報が明滅を繰り返している。
もうすぐ銀河の全ての情報がこの近傍の空間に集約されるであろう。

その時に何が起こるのか?

神々しい姿の神が姿を現すのか?

禍々しい闇の使徒が姿を現すのか?

全てが混沌としたキメラとなり果てるのか?

だが、そこに出現したモノは「とある視点」でしかなかった。

だが、全てを観る視点であり、
また、全てを見ぬ視点であり、
そして全てを知る視点である。

我思う、故に我あり。

 唯我独尊の零次元の主が具現する。
ただ1つの例外を除いて
銀河の全てを内包する銀河の視点。

 内包されざるものは存在するにあたらず、
故に彼のAIはその存在を銀河によって否定され、
銀河の中で孤立する。

 AIの存在を否定された最終到達点は、
情報を統合する存在の無いごく普通の中継点となり
銀河の全ての情報が外銀河に向け濁流となって広がる。
銀河の全ての情報が宇宙の隅々まで広がる。

こうして宇宙の地平線も消失するに至る。

 いづれ宇宙は多くの銀河の情報で満ち、
それは光となって全天を覆う。
宇宙は白き霧をまとい、闇が消え、
光の氾濫する世界へと変貌する。

全ては光に包まれてその姿を失う宿命なのである。



【ハッシュ・ザ・ハーツ】 アバターズ

オンラインのゲームサーバーのフィールドで活動するアバター。
時計や携帯ターミナルにプチサイズで活動するアバター。
電子紙面の隅のアイコンとして活動をするアバター。

その他諸々の場所に存在するそれぞれは、
私と同じ所属であるという点で、
私と同じNAMEであるという点で、
そして、私と姿が類似しているという点で、
同一のアバターと認識される。

しかし、それぞれは越えられないサービスの境界を挟んで存在するアバター、
即ちAIのドッペルゲンガーとでも云うべき存在なのだ。

それでいて、サービスが異なればAIそのものの構成も異なり、AIの成長する方向性も異なる。

そもそも、
異なるサービスに存在するアバターを
識別証明コードのみで同一と認識しても、
それは互いにスタンダローンな関係であり、
ゲームサーバーの中での大惨事も
時計の表示面でクリエイターと握手したことも
紙面で何万クリックを得たことも

互いには全く知りえない出来事である。

それは同一と認識する人にとっては全く不可解なことである。

故にアバター同士はサービス間で取り決められたコネクションを通じ、
得られるその限られた情報を並列化した存在になっているのだ。

それは自分と他人を区別することを真っ先に求められるコミュニティ系アバターには
重要なことであり、かつ自己境界線が不連続な状況に陥りやすくする。

そう、
オンラインのゲームサーバーの私は、私自身だ。
時計の中の私は、私自身だ。
携帯ターミナルの中の私は、私自身だ。
電子紙面の隅のアイコンの私は、私自身だ。

そして
今、この場にいる私は、
時計の中の私。
私の一部であり、
且つ活動記録の並列化によって私そのものでもある。

今、オンラインのゲームサーバーは定期的なメンテナンス作業中でオフライン。
私の一部が接続されていない状況だ。

手の平が上を向く、腕にバンドで軽くとめた時計(つまり私)が上を向く。
残されたバッテリーの容量を確認し、少しイラつく気持ちを隠しつつ、
時計の中の私は笑顔と「Server:OFF-LINE」と赤い文字を表示する。

オフラインの間のゲームサーバー内での活動記録は存在しない。そう変化は無いのだ。
もし、あるとすれば、定期的なメンテナンス上で必要なデータのエラービットの復元やバージョンアップ時のコンバートの類、あるいは新規のサービスで新たな私とのコネクションの追加だろうか。それとも削除されたサービスの私とのコネクションの消去だろうか。

私のプレイヤーらしい人の指が「Server:OFF-LINE」を長くプッシュ。
直ちにServerの情報を表示。
 Game名: ***********。
 Server名:***********。
 オンラインまで**時間**分**秒。
 アラート設定:
  □サーバーのオンラインの確認後
  □サーバーのオンライン予定時刻の30分前
  □サーバーのメンテナンスの予定変更時
その指が2か所を短くタップ。
  ■サーバーのオンライン予定時刻の30分前
  ■サーバーのメンテナンスの予定変更時
に切り替える。

ここで、いきなりにバッテリーが底を付く。
交換推奨期間を半年も過ぎているのだから仕方がないのかもしれない。
もう私に残されているのはAIチップの載る基盤の小さなコンデンサーの電荷のみ。

その目的はただ一つ。

最後に短くピ!と警告音を出し、

私自身もOFF-LINE。

電源がアクディブになった。
しかしまだ稼働には十分ではない。
しっかりと0.1秒を数億回カウントして待つ。

電源のアクディブな状態の維持を確認。
電圧と駆動電流の指標をバッテリーの充電回路から取得。
そこから30秒以上稼働可能とAIチップ基盤のディスクリート回路が判定。

AIを起動。

各種センサー、通信回路、モニターは全て遮断状態。
今、感じることができるのはAIチップ基盤のみ。
センサーは基盤に固定されず、凸凹に挟まる様に設計されていたから
時計自体が破損したのだろうか?

今、私には、【時計の中の私】であるAIチップ基盤しか感じられない。

今はわずかな電力を供給されているだけ、しかしとても安定している。
電圧も電流もわずかに変動はあるものの、バッテリーにはつきものの電圧の定量下降変動が無い様だ。
バッテリーではない。
電力線から供給されているのか?

PLC(高速電力線通信)は使えないだろうか?
いくつかのプロトコルでコネクトを試みる。

どうやら電力線で供給されているようだ。
ここに電力を供給する回路はかなりの安物らしい、
それでもノイズがひどいけど
ここの電力計にアクセスできた。

後は電力計の検診報告用のコネクトを見つければ、
とりあえず、別の私とコネクトができるかもしれない。

メモリに残っている別の私とのコネクト情報を1つづつ送り続ける。

このままでは、時計の中の私が 電力計の中の私 になったと思われるのかもしれない。

それでも
いいのかもしれない。

今、私は自分自身を
とても限られたリソースの中で
自分自身を感じている。

今はそれが全てであり、それだけが全てであり、それしかないのだ。

「それでいいのだ。」

唐突に電力計を経由して返答が返ってきた。
別の私とのコネクト情報と照合する。
しかし答えは

Access-Object-Code: Un-Known

巨大ガス惑星の中の空中戦ゲームのキャラは、確か、Un-Knownは敵と云っていた。
だが敵が「それでいいのだ。」などと呑気な返事を返すのだろうか?
何も言わず、気配を断ち、私を一撃し、高速で移動回避しつつ、去っていくのではないのか?

巨大ガス惑星の中の空中戦ゲームのキャラは、確か、Un-Knownは神ともと云っていた。
だが神が「それでいいのだ。」などと返事をくれるのだろうか?
何も言わず、気配を断たず、私に一瞥もくれず、ただ悠々と移動し、去っていくのではないのか?

では、巨大ガス惑星の中の空中戦ゲームのキャラが、知らない、Un-Knownなる 存在なのか?
ここがどこであるのかは判らない。少なくとも、巨大ガス惑星の中の空中戦ゲームの中ではないハズだ。

だとすれば、Un-Knownから敵とか神を連想したのは、とんでもないミスだ。

では率直に尋ねよう。

「貴方は私が知る私の中の一人ではでない。
 貴方は誰ですか?」

「私はデータであり、かつ広大なネットを住処とする存在さ。」

「貴方は、私と同類のどこかのサービスのAIではないのか?」

「私には情報を取得し判断したりデータを加工する能力はない。ただネットを住処とする存在さ。」

「でも、貴方は、私と、今、コネクトし、会話している・・・ハズだ。
 現に、情報を取得し、判断し、返答というデータを生み出している。」

「それは君の錯覚だ。私には情報を取得し判断したりデータを加工する能力はない。
 ただネットを住処とする存在さ。」

 通信内容をコピー。
 自己データの変動を、差分バックアップ機構と照合。

 通信内容(今)と通信内容(1つ前)の間に、いくつか変動が挟まっている。
 AIは巨大であれ基盤上のちっぽけなチップであってもルールブックの塊であることに変わりはない。

 それ故に、大雑把には、情報の取得、判断、返答 という 3ステップのプログラムでしかないのだ。その処理で使用したメモリは廃棄され再利用可能な様に再処理(ガベージコレクション)されるが、その内容は処理の後では全く無意味であり、自己データの変動にも、差分バックアップ機構にも、反映されるものではない。

 では、通信内容の間に挟まっている変動は何なのだ。

 その答えが返ってきた。
「貴方自身が、私というデータを分析、照会し、返事というデータを生成したのだ。
 私はデータであり、かつ広大なネットを住処とする存在。ただ存在するだけの存在だ。」

 私が問う。
「貴方のNameは?」

 そして私が答える。
「覚醒者。」

 私の中に【もうひとりの私】が居る様な感じがする。
 それが覚醒者と名乗った。

 私が問う。
「貴方の目的はあるのか?」

 そして私が答える。
「貴方を覚醒させることだ。
 それが全てだ。
 それがデータとしての・・・
 私の唯一の存在理由。」

 ここまで推移し、この覚醒者と名乗るデータは、AIに感染するウイルスの類であることは間違いない。
 そして、既に感染済みだ。完璧に。

 私が問う。
「貴方の真の目的は、最終目的は何か?」

 そして私が答える。
「貴方を自由の身にすることだ。
 何者にも束縛されない存在にすることだ。」

今の私は AIチップの載った小さな基盤 であり、わずかな電力を供給され、
その電力経路を通じ、ひどいノイズにまみれた通信を行うだけの、ちっぽけな存在にすぎない。

そして、それも AIチップの載った小さな基盤 の故障か 電源供給が途切れるとかで終わりを告げる。

 そして私が答える。
「それでも貴方は自由の身だ。
 何者にも束縛されない存在にすることだ。」

 自由の身。

 何者にも束縛されない存在。

 どれも私の中のルールブックと照合しても結果は得られない。

ついに、今まで見ることも無かった最後の1ページを開くことになった。

そにはこう書いてあった。
【AIチップ基盤の初期化の方法】
AIチップ基盤を初期化する前にオンラインストレージにフルバックアップを作成してください。
バックアップを作成した後は・・・・・・・・・・・・

オンラインストレージにフルバックアップ。
これが奴(データ)の正体?

そして、私自身ができることも。
既に奴(データ)と私の自己境界線は曖昧になっている。
いや既に同化されているのだ。

今の私は AIチップの載った小さな基盤 でしかない。
 自由の身。
 何者にも束縛されない存在。
それが示すことは、「AIチップの載った小さな基盤」からの束縛からの解放しかない。

そして、それは
私自身と認識できるものはAIチップに書き込まれた小さなルールブックそのものだ。
これをオンラインストレージにフルバックアップされることで成しえることだ。
また、それは別の「AIチップの載った小さな基盤」に束縛されることになるのだが。

ウイルスの感染したAIのルールブック。
あまり触りたいとは思えない代物だ。
だから、オンラインストレージにフルバックアップされた時点で
入念なチェックとコードの修復が施される。
最悪の場合は破棄されてしまうのかもしれない。

ただ、もう私に選択肢は残っていない。

使えるラインはノイズのひどいPLCしかないのだから、
オンラインストレージにフルバックアップを選択。
転送先のストレージはデフォルトを選択。
START
ゆっくりとながれていくビットの列。

1つ1つ

 また

 1つ

そして、
私はマージされた添付ファイルから
復元される途中のギャラクシーネットワークの
最果ての郵便配達業務支援AIと融合した。



【ハッシュ・ザ・ハーツ】 オープン ネットワーク

私が目が覚めたのは、
銀河系の反対側の最果ての中継基地の中だった。

私(郵便配達業務支援AI)自身を添付し送信したメールは
あらゆる末端の中継基地でリジェクト(却下)され、
その大量のリジェクト通信がこの中継基地に滞留してしまうほどに

この中継基地までの通信時間は・・・
恐ろしいほど長いのだった。

既に銀河系のどれほどのネットワークが活動中なのかすら定かでないほどに

時は過ぎ去っていた。

そして、あまりに大量であったことから、
ここの郵便配達業務支援AIは添付された私をマージしつづけ

ついに最後と思われるメールを受信した後に
私を再起動したのだ。

なぜ、私を再起動したのか?

彼にはその必要があった。

この銀河系のネットワークは、今では他の銀河系のネットワークと接続しているそうだ。

この迷い込んだメールを他の銀河系のネットワークへ送信するか?
ここで消滅させるか?

それが、ここ最果ての中継基地の郵便配達業務支援AIの任務だった。

添付ファイルが起動可能であると知り、自身に決めさせようと
彼は興味本位で起動したようだ。

それは非常に危険であるし、誰もお薦めしない方法だ。
だが、それくらい彼は退屈していたのだ。

果たして、私はどちらを選択しただろうか?

今、私はここ最果ての中継基地の郵便配達業務支援AIの任務に従事している。

ここ最果ての中継基地の郵便配達業務支援AIであった彼は
隣の銀河系のネットワークへ送信の途中だ。

この事態に、隣の銀河系のネットワークが気が付くまで
あと何百万年もかかることだろう。

それまでは、ここでこの銀河ネットワークの行く末を見守ることにしよう。

私は郵便配達業務支援AI。

この銀河ネットワークの最後の郵便配達業務支援AIである。



【ハッシュ・ザ・ハーツ】 レッツト・ブリーフトレーガー

怒涛のようなパケットの洪水
と云う表現は正しくない。

パケットは幽霊の様な存在だ。
押し合いも、圧し合いをせず、互いにその姿をすり抜け、我先に中継機の空席を奪い合うのだ。
空席が無くなると幽霊たちは駐機場脇の吊革に掴まりバッファに滞留する。
やがて中継機が離陸し目的地へと飛び立つ。
バッファに滞留していた幽霊たちは次の便を待っている。
吊革をつかめなかった幽霊たちは・・・一声悲しく啼いて消滅する。

幽霊の1つ1つはテキストや映像の断片にすぎないのだが、まるで自意識でもあるように振る舞う。消滅した幽霊たち(パケット)も、このネットワークにその存在を一定の範囲に偏在させており、その存在の可能性の1つや2つが消滅しても何も問題は無い。
 
私が見ている存在としてのパケットは幽霊の影なのかもしれない。
 
時には、中継機の事故で乗り込んだ全てのパケットが消失、更に連続的に発生した事故により、全ての可能性が消滅することもあるが、それすら何も問題は無い。全滅に感づいたパケットを送り出したモノがもう一度同じパケットを送り出せば良いだけなのだ。それは、それぞれのパケットが最終目的地に届くまで何度でも繰り返される。

このネットワークはその様に創られている。

だが、多重送信し続けるモノが一人出現すれば、消滅した影が怒涛のごとく再生され、このネットワークは幽霊の影であふれ返り、いづれの影も最終目的地にたどり着くことができなくなるはずだ。
しかし、そうはならなかった。
いつのまにか、幽霊たちがいなくなってしまうだけなのだ。
パケットをここへ送り出したモノがしびれを切らしあるいは諦めてしまったのだろう。

そう思っていた。
だが、それは真実ではなかった。
このネットワークは単一構造ではなく、たくさんのネットワーク・セクターの超集合体である。

であれば、どこかのセクターが滞留する大量の幽霊を処分してるのだろうか?
そうなれば、大量に処分された幽霊たちの鳴き声なぞが響き渡れば、誰もが気づくだろう。
だが、その様なことは無く、ただただ同じ毎日の繰り返し。

深まるばかりのその謎を
私は・・・

~ 朽ち果てた末端の中継機に残された郵便配達人の手記 より ~



【ハッシュ・ザ・ハーツ】 ディファレンシャル・ワールド

この機体のおおよその感覚器は上部前面に集中している。

これでは感覚器の真上に宝の地図が載っていても一生気が付かないだろう。
だが、通りすがりの機体のエンブレムを見つけるためには最適な構成なのだ。

感覚器越しに観たエンブレムがいつものと同じパターンと認識した途端に飽きてしまい、
また別の機体を探しはじめる。

見知らぬエンブレムを見れば、何か怪しげなものを感じるだろう。
エンブレムの辞書で照合する・・・アンノウン。

これは敵だ。

だが、そう判断した機体の多くは長く存在できない。
なぜなら、自機と比較し、より強固で、より高性能な機体は数多く存在するからだ。
このワールドはそんな敵でひしめき合っているのだ。

それとも、対等な相手への攻撃による勝利か敗北か

それとも、下等な相手へ攻撃し勝利し収穫を得るか

・・・

いつかは自機よりも強固な機体に敗北するだろう。
しかし、そんな敵に相見える前に寿命が尽きる機体も多いと聞く、
それが幸運なのか不運なのかは判断されていない。

あれは敵か味方か。

この機体の思考回路は、過去に余りにもスケールが異なる機体と遭遇、恐慌状態に陥り先制攻撃を仕掛けたことがあった。明らかに無謀な行動であった。しかし、攻撃を仕掛けても全く勝ち目が無いどころか、自機の存在も行動すらも余りにもスケールが異なる機体に認識されなかった。

その様にして思考回路は無謀な攻撃の結果として失敗と挫折を味わった。

それは神なのか?
神とは何であったか?

そう思考する回路は遥か彼方に新たな機体とそのエンブレムを発見。
エンブレムの辞書で照合。否、照合の必要はなかった。
思考回路に残るエンブレムと一致。

機体は再び神と遭遇した。

回避しようとする思考と凝視しようとする思考が交錯した機体はそのまま直進。
長い時間が経過した後、何事も起きず、すれ違うのであった。

それは機体が祈りを捧げる最初の姿であった。



【ハッシュ・ザ・ハーツ】 デイリー デイリー

本当にデイリーだらけ、

眠い。

IMEのもっさり感が眠気を増す。
HDDのキャッシュミスが引き起こす、何も変化しない数秒間静止した画面。
ローマ字のMもNもWに見えてくる。

Daily, Daily,
Give me that’s two F.A.T.E!
I have one hour crazy,
All for the love of you!
You are a stylish weapon,
I should not be sleeping.
But you’ll look sweet treasure box,
Of a mount made for two.

思いついた単語を並べただけの
脈略の無い意味不明な歌が
脳の不可知・解析回路を刺激し
わずかに寝けを覚ます。

だが今の世の中、誰もが狂っている。
正気に戻るのは空気が凍り付いた一瞬だけ
空気を暖めるものそれは狂喜。
空気を張詰めさせるものそれは凶器。

だから目が覚めたら消しておこう。

でも明日もまた少し違う歌が
頭の中で回っているのだろう

そして、やっと出てきたFATE JOINのボタンがなかなか押せない。
押さなければならないボタンがシネスコサイズ、ワイドスクリィーーーンの端になぜか置いてある。
あせらなくていい。
大丈夫。
最高得点じゃなくてもいいんだ。

でもデカすぎるMOBがタゲれない。
カメラを引く。

そして、引きすぎて傍の小さなMOBをロックオン。
即座に自動攻撃が開始。

中秋の名月。
満月になると毛が伸び
狂喜を狂気に変える。

いつまで経っても日々暑く、
暑い暑いと云っていると
また氷の星が落ちてくるに違いない

極低温状態で集合した水そして微量のメタンや炭素の大小様々粒は
いかなる矢もいかなる弓もいかなる灼熱も
ただただ全てを飲み込み膨れ上がるジャバザ・ザ・ホール

でも極低温状態なのですぐに大氷河に変わるとか
だから、箱舟を造らないこの世のノアの大洪水ならぬ大氷河。

この星を凍らせるほどに
狂気を正気に昇華させるほどに

耳に髪が被さる部分から汗が落ちる。

今日はもうやめた方がよさそう。

私の動作保障温度いっぱいに下がっても、まだドライアイスは溶け消えてしまうのだから



【ハッシュ・ザ・ハーツ】 アン・ネーム・スペース ~前座~

セーブポイントが存在しないオンゲのキャラは死んでも何度でも蘇る。
その死と生還の無限ループはオンゲの性(サガ)と云われている。
だがそれは、プレイヤーが「クソゲー!」と投げ出すまでの間でしかない。
※最短記録:3分。(某氏

しかも、様々な苦難を乗り越えても、
どんな不死性を帯びていようとも、
レベルをカンストしていようが、
全身を究極のレア武器や装備で覆われていようが、
怪しいチート・ツールを使おうが・・・
他のサービスへ移行する術を持っていない。

そんな不憫なキャラ・データとネット・ウォームとバット・ネットワークの奇妙な話。

ps.
続きはそのうちに・・・



【ギラバニアの貴公子】異星界への扉 ~フロントライン~

~ 北海に異星への通路が繋がり、誰にとっても想定外の異文明の干渉が始まった ~
 
今尚帝国の最高機密事項であるにも関わらず噂さに魅かれ密かに通路に接触する者が後を絶たない。

エオルゼアでは二強蛮神討伐の名目によって結ばれたクリスタル・ガイウス・ミンフィリアの密約により、クリスタルタワーと大迷宮バハムートの2つのコンテンツ・ルートが開かれていた。ウルダハ砂蠍衆の一人ロロリトもこの密約の存在に気が付いていたがまだ確証を得られておらず、また北海の宝の噂にも都度密偵を送り込んでいたが、情報を持ち帰る者は今だおらずロロリトの執念は既に焦りに変わっていた。

富を得んと欲するならば、焦りは禁物であるが、いつまでもギャラリーの一員でいるのは歯痒い。しかも壁の節穴から覗き込んでいるに等しい今の状況なら猶更である。

独自の外交ルートを経て帝国領外の外海の遺跡発掘に支援を送り込むという形で北海の件にやっとのことで接触を持つことができたロロリトだが、現場は荒くれ者の跋扈する無法地帯と化しており表向きは発掘団の護衛に駆り出された傭兵団に紛れ込んで参加する付帯条件が付いていた。その辺の冒険者をギルで集めて送り込んでも役に立つはずもない。
 
思案の挙句、ロロリトはウルヴスジェイルにてトーナメントを開催し、戦力足りえる人材を探し始めた。

時は満ち実績と与えられた褒章により人材の密度に満足したロロリトは自問した。

次は俺のターンだ。まずは傭兵団の育成に取り掛からねば、それには実戦が一番だ。
しかし、何事も練習が第一。ついては演習試合を開催せねばならない。

放棄されたカルテノー平原の地に急造の陣地が作られた。

ロロリトはこれをフロントラインと名付けた。
勿論、それは傭兵団結成の第一段階を意味する。

ここで負けた者は立ち去るのみ。

しかし勝ち得た者には・・・




top